ミロヴィ幼女

思っていないことを思う

リズと青い鳥感想

 やっと『リズと青い鳥』を観に行けたので感想書きます。一般的な視点からの考察はいっぱいtwitterとかに書き殴られてると思うので、今回は正解かどうかは置いといて、僕個人がどう思ったかを中心に話そうと思います。

 ここから下は当然ネタバレあるのでまだ観てないって人は気をつけてください。

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☆この映画がつまらない理由

 まずこのお話ではのぞみやみぞれが生活している現実世界と『リズと青い鳥』という絵本の中の世界という2つの異なる世界が同時に描かれていて、それらを対応させる形でのぞみとみぞれの関係性を浮かび上がらせます。

 そしてこの物語のオチというか手法的な核になっているのはミスリードです。『リズと青い鳥』は簡単に捉えると孤独なリズに青い鳥が働きかけ、幸せをもたらした後お別れするというストーリーなので、のぞみとみぞれの出会いや決別のシーンと重ね合わせて考えると、リズに対応するのがみぞれで、青い鳥に対応するのがのぞみという理解に落ち着きます。しかし物語を進めていく中でこの対応関係が逆転するわけですね。つまりあの2人の関係性が逆転するシーンがクライマックスであり、視聴者にお〜wと言わせるべきところなんですが……ふ〜ん、それだけ?と思った人も実は多かったんじゃないかなと思います。

 この映画ぼーっと観てるとマジでこれだけなんですよね。どういうことかというと普通90分くらいの映画ってお話が大きく動く場所が最低でも2つくらい、細かい波も入れるともっとあるべきだと思うんです。じゃないと見てる側が退屈しちゃうんですよね。でもリズと青い鳥にはその波のようなものが1つしかない。しかもその1つが特大の波ってわけでもない。さらにやばいのが細かい波がほぼない。これらのことからこの映画を見てつまらないと思うのはある側面では間違ってないと思います。

 そもそもこの映画ってタイトル知ってて、絵本の『リズと青い鳥』の内容理解した瞬間に話の流れとオチが分かるように出来てますよね。だってなんで映画のタイトルリズと””青い””鳥なんですか?別に鳥の色なんて赤でも黄色でも良くないかって思いませんでした?しかも普通に考えたら青い鳥はのぞみに対応する役割なんだからイメージ的に赤とかピンクみたいな暖色系の方が合いませんか?でもタイトルを適当に決めてるわけはないので絶対に鳥の色は青じゃないとダメな理由はあるはずなんですよ。そこまで考えるとみぞれちゃんの髪色って青いし、もうちょっと詳しくて好きな色が青ってとこまで知ってれば青い鳥は本当はみぞれちゃんに対応してて、逆説的にリズがのぞみに対応してるってオチに持っていくはずだぞってとこまで映画開始10分くらいで気がつけるんですよね。ちなみに僕は気づきました。

 製作過程を読み取る反則行為でイキり散らしたところで本題に帰りますが、つまるところ製作陣は所謂クライマックスのネタを隠す気はないってことが言いたかったんですよね。もっというとクライマックスにクライマックスとしての役割を期待してないということです。僕は製作陣に「この映画はただ観て、観たものを観たまま解釈するような普通の楽しみ方をさせる気はないぜ」ってタイトルで宣言されたように感じたので、話の全体的な流れよりもちょっとした演出にめちゃ気を配るようにしました。リズと青い鳥は2周目見た方がいいみたいなのはそういうことなんだろうなと思います。

 

☆みどころ

 上でした話を踏まえて、じゃあクライマックス以外のどこが見所なんだよ?って話に移るんですけど、いっぱいありますよね。というかぶっちゃけ全部見所ですよね。まぁ一言でいうとのぞみとみぞれの表と裏の関係性についての伏線が無限にあるのが最大の見所だと思います。

 例えば冒頭でみぞれがのぞみが登校して来るのを階段に座って待ってるシーンありましたよね。そしてポニーテールを揺らしながらズンズンのぞみが歩いてくるとみぞれちゃんすごい嬉しそうで可愛いうへへ。おっと。そんで2人が合流した後、先に階段を登り始めるのは確か先に到着してたみぞれじゃなくて後から来たのぞみなんですよね。実はこのシーンだけじゃなくて、みぞれはのぞみと一緒に歩いてる時ほとんどのぞみの後ろをついていくように描写が徹底されてたように思います。ラスト付近で校門から出たときにちょっと並んで歩いたとこでお〜っ!!て思った記憶があるのでそれ以外はほぼ全部かな?これはどちらかというとミスリードに当たる関係性を示唆するための表現ですが、みぞれとのぞみの表の関係を象徴してたように思いますね。

 でもこれはちょっとこじつけ感もあるのでもっと象徴的なシーンとしてその階段登った直後にのぞみが落ちてる青い羽を見つけてみぞれにあげましたよね。あのシーンはのぞみというリズがみぞれという青い鳥を羽ばたかせることを選ぶという結末を象徴してるとしか考えられないレベルで露骨だと思います。

 さらにもっと踏み込むと羽をもらったみぞれは「ありがとう?」という風に疑問系でお礼をして、のぞみに「なんで疑問形なの?笑」とからかわれるみたいなシーンが続いた気がするけど(記憶が曖昧観ながらブログ書きたい)、ここも分かってないみぞれと薄々分かってるけど上手いこと距離を取るのぞみみたいな構図が少しほのめかされてるようにも思えて来ますよね。おいおい面白くなって来やがったな……。

 こんな感じで冒頭のワンシーンだけでもこの有様。物語が進むにつれてこれが更に緻密で抽象的な表現に落とし込まれていくので1回観ただけで全部理解できる人はいないってのは間違いないでしょう。

 

☆主人公

 語ろうと思えば一生語れてしまうせいでやめどきが分からなくなってきたんですけど、この物語の主人公はのぞみだと思いますね。何故かと言うとキャラクターが掘り下げられたと感じるのはほとんどのぞみだけだからです。みぞれは結局作中通してのぞみが一番!っていうスタイルを貫いてるんですよね。反面のぞみはみぞれに対するコンプレックスを可哀想になるくらい徹底的に描かれています。本編の方ののぞみはみぞれに対して憧れに近い感情を抱いていることはちょくちょく示唆されてたと思いますが、それが憧れなんて生易しいもんじゃないんだよってことをしつこいくらいに見せられましたね……。のぞみがみぞれをプールに誘ったシーンでみぞれが他に誘いたい人がいるって伝えた時ののぞみの動揺っぷりやばくなかったですか……?みぞれはのぞみに対して好き100%の感情を抱いてるとするとのぞみはみぞれに対して好きと嫌いぴったり50%ずつなんですよね。

 ちなみに好意の話についての延長で大好きのハグをみぞれが強行したシーンでみぞれはのぞみの好きなところをいっぱい言いますよね。それに対してのぞみはみぞれのオーボエが好きとだけ返すんですよね。これ数だけ考えるとのぞみの方が薄情な感じに見えますけど、内容まで考えるとみぞれの方がよっぽど残酷なことしてるなと思いました。どういうことかというとみぞれはのぞみのことを何から何までめちゃくちゃ褒めるんですけど、のぞみのフルートが好きとは言わないんですよね。それに対してのぞみはみぞれのオーボエが好きとだけ返す。でもみぞれは気がつけない。もしこれがギャルゲーでみぞれが主人公だったとしたらのぞみフラグがばっっっこりへし折れるくらいのミスだと思いますね。まぁそこまでされてものぞみは自身に突き刺さったみぞれフラグを最後まで抜き取ることはできなかったわけですが。

 

☆ハッピーエンド

 作中で何回かのぞみが物語はハッピーエンドが良いみたいなことを言ってましたけど、この物語は果たしてハッピーエンドだったんでしょうかね。関係性だけを追いかけた場合でものぞみとみぞれは別々の道を志すことになった決別の物語のようにも思えますし、すれ違い続けていた関係性を解消し、共に前に進んだ物語とも取れます。最後ののぞみが振り返るシーン含めて視聴者の主観に委ねられていると考えてもいいのですが、個人的にはのぞみが有言実行したと考えるのが好きですね。つまりのぞみが自身の手によって物語をハッピーエンドに導いたという解釈をしたいです。上に書いた通り僕はこの物語の主人公をのぞみだと感じているので、物語のエンディングの印象ものぞみを中心に置いた解釈をしたいんですよね。そしてのぞみは作中で複数回物語はハッピーエンドが良いという風に宣言している。そうするとこのハッピーエンド推し発言は意地でもこの物語はハッピーエンドで終わらせてやるというのぞみの意思表示にも思えてくるんですよね。第三者である僕が彼女の物語についてハッピーエンドかバッドエンドなのかを考察すること自体おこがましいことのような気がしています。

 ちなみにどうやってのぞみがこの物語をハッピーエンドにしたのかという話ですが、大好きのハグをみぞれに強行された時のぞみは初めてみぞれに声をかけたことを実はあまり覚えていないという嘘をついてましたよね。これは単にみぞれを突き放そうとしてついた嘘だとも捉えられますし、表面的にはその通りだと思うのですが、もう少し深読みするとのぞみはみぞれを吹奏楽部に誘ったことに対して複雑な感情を抱いているが故にその記憶を振り返りたくなかったことから咄嗟についた嘘なのではないかとも思います。しかし、のぞみはハグを終えた後廊下を歩きながら先ほどあまり覚えていないと言っていたみぞれに初めて話しかけた時のことを、みぞれがいつも回想シーンで思い出すのと同じくらい鮮明に思い返します。そして回想が終わると同時にのぞみは前を向いて歩き始めます。確かここでのぞみの歩調も最初の弾むような歩調に戻っていた気がします(多分)。

 ではなぜ回想シーンを挟んだことでのぞみの調子が回復した(物語がハッピーエンドに向かった)のかというところですが、おそらくみぞれを音楽の道に誘ったのは自分だということを自分の存在価値の下敷きにしたのではないかと思います。実はみぞれとのぞみは生きるために必要としている時間軸も対照的で、それを象徴しているのが大好きのハグのシーンのちょっと前でみぞれが1年の時にのぞみが黙って部活をやめたことを蒸し返しますが、この時のぞみはそれは昔のことと切り捨てて、逆にみぞれは私にとっては今という風に返すシーンです。このやり取りでのぞみは未来に生き、みぞれは過去に生きていることが示されてると捉えられます。そしてのぞみが廊下の回想シーンで行ったのはまさにみぞれと同じ過去を生きるというやり方だと思うんですよね。こう考えていくとのぞみとみぞれは違う道を歩き始めたようで、実はのぞみはみぞれの過去を見つめるという生き方を導入し、みぞれはのぞみの未来を見つめるという生き方を導入するといったようにお互いがお互いの生き方のようなものに歩み寄っているとも考えられるんですね。えっっっっっっっっっっっも

 

 話がふわふわしてきたのでまとめに入りますが、この映画やばいですね。卒論かけちゃうよ……。ユーフォの登場人物って良くも悪くもみんなサバサバしてるのでここまでドロッとした人間関係を描いてくれるのは新鮮でしたね。のぞみがなつきとゆうこの前で私ほんとに音大受けたいのかなぁみたいな話を淡々とし始めたところとかめちゃ怖かったよな……。まだここに書いてないけど気づいたとことかいっぱいあるので(2人の癖とか図書館でみぞれが揉めてると必ず現れるのぞみとか)もしリズと青い鳥について語り合う通話あったら呼んでください。

 最後にこの映画の個人的MVPを発表したいと思います。この方です。

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 いやこの人やばくなかったですか?のぞみとみぞれのすれ違いを演奏聞いただけで看破して、しかもそれをでかりぼんを呼びに来たついでにみぞれ本人にぶち込んだのハート強すぎ…‥まじで演奏のことになると鬼になるな…って感心しましたね。